土佐錦 河邉改治氏 2014年 @

理想の土佐錦をつくること

土佐錦は、出雲なんきん、地金とならんで日本三大地金の1つであり、日本各地に多くの愛好家がいる。品評会も発祥の地である高知県だけでなく各地で継続しておこなわれている。土佐錦の最大の特徴は、他のどの品種にも勝るほどの美しく独特の表現をもった尾にある。尾筒から左右に水平に親骨が伸びている平付け尾で、当歳の頃は扇型をしている。その尾が月日を経てだんだんと反転し、やがて大きく成長した尾の反転した部分は顔の方までくる。しわや重なりが無く立派に育ち反転した尾は非常に美しく、その尾を備えてゆったりと泳ぐ姿には土佐錦ならではの魅力がある。この魅力は親魚になって本領を発揮するため、多くの愛好家が自身の思い描く最高のかたちをした土佐錦を作り上げるために、数年にわたって毎日愛情を注ぎ込む。

 

 

美しい土佐錦を作り上げるためには、他の品種には無い独特な飼育方法を用いる。そこには土佐錦を作り上げるための秘密があり、また、体質的に弱いとされる土佐錦の弱点を克服するような独自の稚魚育成方法もおこなわれている。今回は、中部土佐錦普及会の会長である河邉改治氏にお話を伺った。

自然界を知る。ということ

「まず、自然界を知ることだ。」今回の取材で最も印象的な言葉だった。河邉さんは土佐錦だけでなく生き物全般に対して、その生き物の自然界での生息環境を考える習慣がある。どんな場所に生息しているのか、日中はどういう行動をするのか、エサは何を食べているのか、夜はどこでなにをしているのか。なぜ、そのような行動を起こすのか。このように、その生物の習性や行動パターンを知った上で、その理由も考える。

 

「小学生のときは学校から帰るとカバンを放り投げて田んぼや川へ遊びに行く生活だったよ。河口付近の小さな川でウナギを捕まえることもした。そのときも、ウナギがどこで何を食べて、どんなふうに生活しているのかを考えていた。ウナギの好物は何か知ってるかい?ドジョウなんだよ。」とても楽しそうにして河邉さんが話してくださる。

 

対象となる生物とその生物が生息する自然環境に対する考察が、河邉さんの土佐錦飼育のノウハウの随所に見られた。今回の取材は11月末だったこともあり、冬の冬眠から春の産卵と稚魚の育成方法について、さらに土佐錦を美しく育てるためのコツを教えていただいたので紹介させていただく。

飼育水は自分で掘った井戸水

河邉さんが飼育に使っている水は井戸水(地下水)だが、この井戸水は最初からその場所にあったわけではなく自分で業者に依頼して掘ったものだ。近くの公園にある池が自噴していることや、その公園と井戸を掘りたい場所(現在の育成場所)の海抜の差など、他にもこれまで得た情報を鑑みてそこに井戸を掘ることに決定。見事、たった6m40cmほどの掘削で土佐錦飼育に十分な量の井戸水を得ることができたのである。

 

井戸水は貯水タンクに一旦ポンプアップして曝気してから使用する。「曝気することで浄化菌を増やして、硬水から軟水に変化させるんだよ。」この井戸は浅井戸なので浄化菌がいるが、30m以上の深井戸の場合浄化菌はいないという。また、曝気は溶存酸素量を増やすためでもある。水道水は川の水を原水とする場合、溶存酸素量は高い。川の水は空気に触れているので溶存酸素量が高くなるのだ。しかし、井戸水はふつう、土の中を流れている地下水を汲み上げて利用しており、地下水は空気に触れないことから井戸水の溶存酸素量は低くなる。

冬の準備

冬は土佐錦を青水で飼育するので、冬に入る前に青水を作っておく。80Lのプラ舟で青水を作る場合、当歳魚なら15匹入れて餌を与えて飼育しながら青水を作る。青水になったら匹数を減らしてもいいが、エサをきちんとあげないと養分がなくなり青水が枯れてしまう点は注意が必要になる。

 

取材に伺った11月末には既に多くのプラ舟が青水になっていた。この時期はまだ暖かいから2週間に1回ヘドロを流して飼育しているとのことだった。ヘドロは流すが青水はキープしなければならないので、上水をタライなどにとっておいて底に溜まったヘドロを流してしまう。そしてまた上水を戻して減った水を足すという順序でヘドロ抜きをおこなっている。

 

青水は、雨水が入るときれいな青水を早く作ることができるそうで、青水になりづらい場合はきちんと青水になっているプラ舟から青水を作りたいプラ舟に種水として水を移動させる方法もある。ちなみに青水とは水中の植物プランクトンの数が増えて水が緑色や茶色に見えることを指すが、色味の差は優先種となっている植物プランクトンの種類に起因する。河邉さんの飼育水の青水は写真にもあるとおり、色は緑色の方が強いが茶色も混ざっているような色だった。

 

青水の色味やエアレーションの泡切れを見て水の状態を判断するとのことで、河邉さんの良しとする青水と良くないとする青水を実際に持ち帰って顕微鏡下で観察をおこなった。すると、良しとするほうの青水の植物プランクトンはほとんどが緑藻だった。一方で良くないとする青水は、優先種は緑藻だったが、緑藻以外の藻類が多く含まれていた。肉眼で両方の水の色を比較するとわずかに違っていたがその色味の違いは実際に植物プランクトンの種類の違いにも表れていたことになる。わずかな色味の違いから青水の状態を読み取り、最良の青水になるように手を加えていくのである。

 

良い状態の青水

プラ舟での泡切れの様子

良い状態の青水

洗面器で見たときの様子

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