平賀養魚場 2014年 秋 @

炊きエサで作り上げる金魚

平賀琉金といえば、琉金愛好家であれば誰もが知っているほど知名度が高く、またその特徴的なキャメルバックの体型や多様な更紗模様から誰もが認める質の高さと人気の高さを誇っている。

琉金 2歳魚

キャリコ 2歳魚

 

今回は埼玉県鴻巣市の平賀養魚場を訪ね、親魚の選別から産卵、育成に関する生産行程を取材した。

養殖池の風景。奥に長く、池が続いている。

出荷前のたたき池

 

平賀養魚場は昭和38年創業以来、現在二代目の徳重さんとその奥さん、息子である三代目の範之さんの三人で生産している。創業当初は、徳重さんの祖父が徳重さんの父に黒鯉養殖事業を勧めて黒鯉の養殖をおこなっていた。養殖を開始してすぐに黒鯉を生産することはできたが最初の1〜2年は売り先に困っていた。ちょうどその頃、世間で錦鯉がにわかにもてはやされていたこともあり、新潟から種苗を購入し錦鯉の養殖を始めた。錦鯉の養殖をしていた頃多くのことを研究された。

平賀氏は振り返りながらこう語る。

「昭和50年に埼玉県養殖漁業協同組合を立ち上げた時、既に東京都淡水魚養殖漁業協同組合が東京都・江戸川区にあり、一流の琉金生産者である堀口氏や篠塚氏がおられた。江戸川の競り場に手伝いに行き、書記から始まり競り人も勤めた。その際、先代の堀口氏先代(故・堀口篤次郎氏)から江戸川の金魚養殖の技術を習得した。堀口氏は天才肌で好奇心旺盛、情報収集に熱心な方で、東京都江戸川の金魚養殖の技術を都市化の波に飲み込まれないように、残したいと考えておられた。師匠である堀口氏の思いを引き継ぐべく実践してきたし、自分の代で終わるようなことがないように、何代も技術が続くようにしたい。」

 

平賀徳重さんが継承し、そして発展させてきた技術を1つずつ、紹介していこう。

現在平賀養魚場で養殖されている種類は10種。更紗和金、琉金、キャリコ、黒出目金、オランダ、東錦、竜眼、コメット、朱文金、水泡眼である。

 

これらの金魚に与えるエサのほとんどが、自家製の炊きエサだ。炊きエサ作りは、エサやりの前日に行われる。 16時から釜に300〜400Lのお湯を沸かし始める。17時ごろ、沸いたお湯に材料(魚粉6kg、仕上ぬか60kg)を投入しダマがあるかないかというドロドロの状態を目安に 30 分程度攪拌する。その後、柄杓ですくってコンテナへ移し、蓋をして作業は完了。おおよそ 18 時ごろになる。この 2 時間の作業が冬以外の季節、ほぼ毎日続く。夏場に沸いたお湯と材料を混ぜ続けるというこの作業の過酷さは容易に想像がつく。

 

ここで炊きエサを作る。

炊きエサを作る釜

 

現在、炊きエサを作っている金魚養殖業者は少ないという。既製品の養魚用ペレットを使った方がよっぽど楽だし、材料の仕入れ価格の高騰や大量の湯を沸かすためのコストと労働力をかけて作る炊きエサがペレットに勝る効果を発揮しない限り、今後も炊きエサを作る養殖業者は増えないだろう。しかし、それでも平賀養魚場が炊きエサにこだわる理由は、良い体型(腹)を作り出すことができることと、流通の過程でやせにくい(腹持ちがいい)ことにある。

 

原料のメインである麦ぬかの成分表を以下に示す。「まずいエサでお腹を膨らませる。いっぱい食わせて形をつくる。」と表現されていたが、そもそも粗タンパク質の割合が低い麦ぬかが主成分であるうえにそれを大量の水を含ませて炊くため、粗タンパク質の割合はさらに低くなる。平賀養魚場で完成した炊きエサの粗タンパク質は6%くらいになるとのこと。しかし、この炊きエサで十分に魚を作ることができることは毎年平賀養魚場の魚が安定して流通していることから明らかである。

 

『日本標準飼料成分表』より

炊いた後、コンテナに収容しビニール袋をかぶせて冷ます。

一晩冷まして完成した炊きエサはプルプルした寒天のような状態になる。それを翌日に投餌する。作る量は毎日の観察から見出す。ぎりぎり足りないぐらいの量を作る。ちなみに、その日に食べきらなかった残った炊きエサは取り上げることなく、そのままおいておく。翌日には残り全部を食べてしまうからだ。炊きエサ以外に14時か15時におやつとして粉餌を与える。ただし、これは粉餌を食べさせることが目的ではない。アオコ(植物プランクトン)を食べさせることが目的である。金魚は鰓耙でプランクトンを濾し取ることができるので、この方法でプランクトンに含まれる各種栄養素や色素を積極的に摂取させることができる。

 

できあがった炊きエサはやわらかいが、固形で、寒天のような状態。

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