平賀養魚場 2014年 秋 A
産卵と稚魚の育成
平賀養魚場での採卵方法は自然産卵が基本となる。水面に浮くように加工した塩ビで四角い枠をつくり、その枠の中にホテイ草を入れてその真下の池の底にヒカゲノカヅラを敷いておく。ホテイ草やヒカゲノカヅラを池に入れることで産卵の刺激になり、ホテイ草をめがけて産卵行動が始まる。
実際にホテイ草に付着する卵は少なく、ホテイ草の下にばら撒かれた卵が敷いてあるヒカゲノカヅラに付着する卵がほとんど。そのヒカゲノカヅラを更水を張ったたたき池に入れてふ化させる。泥がかぶるとふ化しないので水はきれいな更水の方が良く、エアレーションしてきちんと溶存酸素濃度を高く保てるようにしておく。
ヨークサックが無くなるころに、ミジンコをわかしてある池へ放流する。1ヶ月くらいミジンコを食べさせ続けることができると、良い魚が作れる。ミジンコの後は、稚魚用粉末飼料をこねて団子を作り、それを各池の皿の上に置いて歩く。これを1ヶ月くらい与えた後、炊きエサを与える。
産卵の刺激の与え方は、先のホテイ草やヒカゲノカヅラを池に入ることだけでなく、他に何通りかある。水温が下がっても産むし、上がっても産むし、水が軽く(青水がうすく)なっても産む。これを逆手にとって、水を重たくしておくこと(濃い青水を保つこと)で産卵が始まらないように留めておくことができる。また、エサを与えないことも産卵をさせない方法の1つ。だが、基本は人間が金魚の産卵に合わせる。
病気について
これまでに苦労した話を伺ってみた。
「穴あき病が5-6年続いた時期があった。ただ、ちょうどその頃、パラザンが発売されてパラザンを使用することで収束させることができた。その後、平成9年ごろキンギョヘルペスウイルス性造血器壊死症(CyHV-2:Cyprinid herpesvirus 2:以下、ヘルペス)が発生し、平成11年ごろから対策に取り組み、昇温設備を導入して対応している。ヘルペス処理について、処理を行うと数が3-4割は減る。出目、オランダ、丹頂がヘルペスに弱いイメージがある。オランダや丹頂は手で触ったときに体が柔らかく感じるが、その辺りとの関連性があるのかも。東錦はまだ硬いイメージで、琉金は東錦よりもっと硬い。ヘルペスには長モノがかかりにくい印象がある。」とのこと。
ヘルペスについては2013年に水産総合研究センター増養殖研究所よりワクチンが開発され、その実用化にむけた研究が待たれるところ。日本各地で発生しており、米国、台湾、オーストラリア、ニュージーランド、英国から感染の報告があり、世界中の金魚養殖業に多大な被害をもたらしている。
更紗和金
平賀養魚場といえば、更紗和金が評価されていることも有名である。更紗和金は例えば琉金のような丸物と比較すると、「描けるキャンバスが大きい」と、三代目の範之さんが表現された。仰るとおり、平賀和金の更紗模様の細かさは同じ魚は2匹といないと感じさせるほどのバリエーションの豊かさ。
しかし、その華やかさには隠された秘密があった。まず1つ、厳しい選別をくぐりぬけた優等品たちであること。そして、親の個体数の多さである。実質、更紗和金として出荷可能なものはふ化したうちの7%程度とのこと。
「赤、白、三つ尾じゃないものを選別でハネて、その中にも口曲がりがいたり、背びれが途中でなくなってしまっている個体もいたり。赤が強い更紗の個体は、成長にするに従って素赤になってしまうこともあるし、白が多い更紗個体は白になってしまうこともある。ただ、問屋さんの立場になって考えて、きちんと選別した更沢柄の和金を出荷するようにしている。」
更紗和金のルーツは東京都水産試験場の系統であるとのことで、採卵用の親魚の数は500匹になる。親に更紗の細かいものを使うことで次世代にもきちんと影響する。また、尾ひれや頭に、赤がのっていること。できれば各ひれに赤が乗っている方が良く、腹巻の赤も良い。ヒレ、腹に赤が入っている個体は迫力があるように見える。また、腹巻の個体は赤が飛びづらい。鹿の子柄は避けるようにしている。補足だが、青水では色が飛びづらいが更水では色が飛びやすいらしい。このようにして厳しく選別された親を使い、現在の平賀更紗和金がある。
琉金
同じく琉金も平賀養魚場の代表選手。琉金のこだわりについてお伺いしたところ、一番のこだわりは形。特に背のキャメルバック。二歳で売り頃になるように魚を丸く形作ることを心がけている。だが、三歳の方がより丸くなりやすい。琉金は更紗和金よりも歩留まりが良く、更紗10%、赤20%程度が出荷できる水準をクリアできるとのこと。