土佐錦 河邉改治氏 2014年 B

土佐錦を美しく作り上げる

「土佐錦は親サイズで美しい状態を長く保つことが難しい。ここが腕の見せ所。重要なポイントは、いかに泳がせないようにするかということだ。」

 

奥にあるのは地下水を汲み上げて貯めておくタンク。

手前には丸鉢があるが、この時期は使用していない。

プラ舟の1/3ほどが隠れるように板が渡してあった。

 

「土佐錦はみんな、この下でジッとしてるんだよ。」

 

と言いながら魚の姿は一切見えない青水の中に手を入れて、渡してある板の陰の方からヒョイッと土佐錦を取り上げてくれた。魚の姿が見えなくても、どこにいるのか分かっているのだ。

 

 

「これは、金魚の祖先であるフナの習性を利用している。フナは川の中心を縦横無尽に泳ぎまわるような魚じゃない。陰の方でジッとしている魚だ。」

 

習性を利用して、なるべく泳がせないようにしているのだ。

 

では、なぜ泳がせないようにしているのか。

 

「木の年輪と同じだよ。」

 

当歳魚や親魚を収容している角型のプラ舟とコンクリのたたき池

木の年輪と同じように一部の動物の骨にも年輪のような構造の成長停止線がみられる。骨が少しずつ太く成長していることと時期によって骨の成長のスピードに違いがあることで年輪のような構造になると考えられる。おそらくキンギョの骨も同様で、夏のようにぐんぐん成長する時期と冬のように成長が鈍化する時期もある。冬場は無理に泳がせずジッとさせておくことで骨の細胞が密になり、硬く丈夫な骨を作り出しているのかもしれない。

 

「だから当歳の時はキレイな真っ直ぐの、狂わない魚を作るんだ」

 

プラ舟全てに配管が施してあり、作業性は抜群に良い。

また、どの舟にも板がかかっていて影ができるように工夫してある。

丸鉢飼育で仕上げた当歳魚を冬の時期にあまり泳がせないことで基礎となる土台をキレイにきちんと作り、また、二歳魚以降も毎年冬にはジッとして泳がずに骨の年輪構造をきちんと作ることが土佐錦の美しく大きな尾を保ち続けるために必要なことと考えられる。

おわりに

今回は河邉さんの土佐錦を作る技術のほんの一部を紹介させていただいたに過ぎない。取材は朝7時から12時ごろまでだったが、まだまだ全然聞き足りなかった。(私の写真撮影の技術が未熟なせいで撮影に相当時間を使ってしまった・・・)河邉さんの話はどれもこれも知的好奇心を刺激するものだった。金魚の祖先はフナであるという事実。それは知っていた。しかし、私はそれを土佐錦の飼育に応用することは考えなかった。他の品種や魚種、例えばグッピーにもおそらくこの考え方は応用可能で、グッピーの大きな尾びれをキレイに保つ方法もグッピーの野生での生息環境の中になにかヒントがあるのかもしれない。事象の理由や原因を考え、それを踏まえた上で自分が目指す方向へ向かうように飼育に手を加える。私にとって非常に新鮮でわくわくする考え方だった。

 

「また来たらいいら。」そう言ってくださって救われた。味噌カツ丼で腹を満たし、青緑色をしたキャベツ畑とブロッコリー畑を見ながら、次回の取材のことを考えた。次は春、いや夏前か。稚魚の泳ぐ光景が見られるころ、また必ず取材に訪れたい。まだまだたくさん知りたいことがある。

 

4歳魚

4歳魚

 

3歳魚

2歳魚

 

2歳魚

2歳魚

 

当歳魚

当歳魚

 

当歳魚

左の個体の4歳時の写真

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