栄養強化とは
栄養強化はなぜ必要か
栄養強化とは、孵化仔魚や稚魚の成長に不可欠な栄養素のうち、ワムシやブラインシュリンプにはあまり含まれていないものを、人為的に取り込ませることです。
ワムシやブラインシュリンプは、たんぱく質が比較的多く含まれている代わりに、脂質が少ないことが特徴です。その脂質の中でも、DHAやEPAといった高度不飽和脂肪酸(HUFA:Highly Unsaturated Fatty Acid)が全くと言って良いほど含まれていません。
では、この高度不飽和脂肪酸が含まれていないと何が問題なのでしょうか?
高度不飽和脂肪酸であるDHAやEPAは、サプリメントで補う成分として聞くこともあり、“体には良さそうなイメージがあるけど別に無くても大丈夫なのでは?”と思われるかもしれません。
高度不飽和脂肪酸について解説するためには、その役割と、海水魚と淡水魚の栄養(脂肪酸)要求について理解していただく必要があります。
高度不飽和脂肪酸について
まず、脂肪酸は主に細胞膜を形成する材料になります。細胞膜とは、細胞1つ1つの外壁みたいなもので、細胞をつくる際に不足すると、異常な形の細胞になったりします。
その脂肪酸の中でも、体内で他の栄養分などを利用しても合成することができないものを必須脂肪酸と言い、食べ物などから摂取する必要があります。人間はその合成能力をほぼ持っておらず、ほとんどの脂肪酸が必須脂肪酸になるため、様々なものを食べることでこれを得ています。
魚類にも必須脂肪酸があり、その中でも海水魚の場合は、DHAやEPAなどの高度不飽和脂肪酸も必須脂肪酸となります。
自然界の海では、高度不飽和脂肪酸は甲殻類やカイアシ類に多く含まれていたり、植物プランクトンにも多く含まれており、それを食べた動物プランクトンも高度不飽和脂肪酸が豊富な状態になっているので、海に生息する魚は自分で高度不飽和脂肪酸を合成する必要がなく、エサから吸収しています。
自然界の淡水では、高度不飽和脂肪酸が植物プランクトンや動物プランクトンに含まれていないため、淡水に生息する魚はこれを自分で合成する必要があり、脂肪酸の1種のリノール酸とリノレン酸からDHAやEPAなどの高度不飽和脂肪酸を合成しています。そのため、淡水魚は高度不飽和脂肪酸をエサから摂取する必要がありません。
この必須脂肪酸は面白いことに、サケやマスなどの川や海の両方で生息する魚は、川で生息しているときは高度不飽和脂肪酸を自分で合成して必要としませんが、海に下りると合成することができず、高度不飽和脂肪酸は必須脂肪酸になります。
このように海水魚は、高度不飽和脂肪酸をエサから摂取する必要があり、摂取できないと正常な細胞をつくることができなくなってしまうことがあります。欠乏症で最も有名なのは、背骨の湾曲です。またエラ蓋欠損なども起こります。
人工飼育下では、自然界のように数え切れないくらいの種類のプランクトンを用意することはできません。また、人工的な環境下で培養したワムシなどには、海水魚の孵化仔魚に必要不可欠な高度不飽和脂肪酸が含まれていません。そこでこれを補うために、栄養強化をおこなうのです。
栄養強化をおこなうには
栄養強化として高度不飽和脂肪酸を取り込ませるためには、それらが含まれている植物プランクトンや栄養強化剤を、ワムシやブラインシュリンプなどに食べさせる必要があります。これでワムシなどの体内の高度不飽和脂肪酸含有量を増やすことができます。
栄養強化ができる代表的な植物プランクトンは、ナンノクロロシプスというものです。この植物プランクトンは、栄養強化だけではなく、水質安定などにも効果があり、稚魚の育成水槽などにも添加することもよくあります。カクレクマノミとタツノオトシゴの繁殖方法では、実際に孵化仔魚の飼育に使用しています。
ただし、ナンノクロロシプスは保存が利かないため、これも培養しなければなりません。そのため、ご自宅で栄養強化をおこなう際は、ナンノクロロシプスではなく人工的に作られた栄養強化剤が便利です。
この栄養強化剤を使用した栄養強化方法は、「家庭でできる稚魚のエサ」ページを参考にしてください。
この栄養強化をおこなうことで、生物餌料としてのワムシやブラインシュリンプなどが大いに活躍することができます。水産養殖では、この栄養強化がしっかりできるかで生産量が大きく左右するとも言われているほど、大切なことなのです。