せっかく生まれた海水魚の仔魚を育てたいという方々へ、
家庭でもできる、稚魚のエサ=“生物餌料”の用意の仕方、教えます!!
海水魚の生まれたての“孵化仔魚”は、人工餌料が食べられないような小さいものが多く、生きたエサ“生物餌料”を与えて育てることがほとんどです。この“生物餌料”のうち、カクレクマノミやタツノオトシゴといった多くの海水魚の孵化仔魚に適しているものには「ワムシ」と「ブラインシュリンプ」があります。まずはこれらを「培養」しなくてはなりません。
さらにこれらは、淡水魚に与える場合はそのまま与えてOKですが、海水魚の孵化仔魚らに用いる場合、そのまま与えるわけではなく、孵化仔魚の成長に必要な栄養分を強化した“生物餌料“にしてから、与える必要があります。この「栄養強化」と呼ばれるステップを踏むことで、孵化仔魚たちが元気に大きくなる確率を上げることができるのです。
通常は、大規模な養殖場でおこなわれている、生物餌料の「培養」と「栄養強化」ですが、これをあなたのご家庭でもできるような方法で紹介いたします。
★栄養強化についての詳しい話は→「栄養強化とは」ページへ
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ワムシの培養方法と栄養強化方法
◆準備するもの
- 10Lバケツ×2つ
- ヒーター(サーモスタット付き)
- エアレーション用セット(4つの分岐がとれるように)
- ウォーターバス用プラ舟・タライなど
- 人工海水
- ワムシの種(たね)親
- 濃縮クロレラ(約10億cell/ml)
- ワムシ濾し取り用ネット・メッシュなど(ろ紙や一部のコーヒーフィルターなどで代用も可能)
- 栄養強化用プラケース×1個
- 栄養強化剤
培養方法
セット例写真
左:培養中バケツ、中央:移し替え用バケツ、右:栄養強化用プラケース
【準備】
ウォーターバスで10Lバケツ2個を28℃前後に調節します。
エアレーションは各容器とウォーターバス容器にそれぞれ1つずつ、水面が盛り上がるくらいの強さでセットします。
人工海水は、ワムシにとって適した塩分濃度の2/3海水になるように、通常の海水を作るときの2/3の量を溶かします。このとき、部分的に塩分濃度が高い場所があると、ワムシの殻が変形してしまうことがあるので、溶け残りがないように注意します。
【培養…クロレラの投与】
まずは、種親を1つ目の10Lバケツに入れ、500個体/mlになるまで培養します。
クロレラの投与量は、10Lに対して以下のように入れてください。
・500個体/mlになるまで・・・2.5ml程度
・500個体/mlに達したら・・・5.0ml程度
慣れてきたら、バケツ内の色や透明度を見てクロレラの消費量を判断し、投与量を調整してください。
1日でクロレラの緑色が見えなくなったらエサ不足です。
【培養…移し替えのタイミング】
ワムシがどれだけいるか、個体数を数えて判断するのが理想的です。
顕微鏡をお持ちでない場合は、自由研究用などの簡易顕微鏡をご使用ください。
500個体/ml以上になったバケツの10L分は、以下のように使用します。
当日に栄養強化しない分には、クロレラを与え続けてください。投与量は水量に合わせて調整してください。
・10Lのうちの1/4(2.5L)…濾しとって、新しく準備したバケツに移し替えて培養します。
・10Lのうちの1/4(2.5L)…当日の栄養強化用にします。
・10Lのうちの1/4(2.5L)…翌日の栄養強化用にします。
・10Lのうちの1/4(2.5L)…翌々日の栄養強化用にします。
最初に500個体/ml以上になった10Lバケツのワムシを使い切る頃には、新しくセットしたバケツの方が500個体/mlに達すると思いますので、同じように移し替えと栄養強化をして使用してください。
栄養強化方法
【準備】
栄養強化用のプラケースも培養用の10Lバケツと同様に、28℃前後のウォーターバスへセットし、エアレーションをセットします。
人工海水も同様に2/3海水になるように準備します。
【栄養強化】
500個体/mlのワムシがいるバケツから2.5L分をネットやメッシュで濾しとって、栄養強化用プラケースに移し替えます。このとき、栄養強化用のプラケースにはクロレラは入れないでください。クロレラの代わりに栄養強化剤を入れます。栄養強化剤の投与量などは、それぞれの使用方法に従っておこなってください。
栄養強化が完了すると、孵化仔魚に与えることができます。この栄養強化という作業をおこなわないと、海水魚の孵化仔魚へは給餌することができません。詳しくは、「栄養強化とは」をご参照ください。
使用方法
【使用量の計算】
まず初めに、栄養強化が完了したワムシの密度を簡易顕微鏡などを使って数えます。0.1〜0.5ml中にいるワムシの数を数えて、1mlあたりの個体数を算出します。
例
・0.1mlに30個体→300個体/ml
・0.5mlに200個体→400個体/ml
その後、孵化仔魚へ給餌したい量と、栄養強化槽から使用する量を計算します。
計算式
栄養強化槽から取る量(L)=孵化仔魚水槽の水量(L) × 孵化仔魚水槽に投与したい密度 / 栄養強化槽のワムシ密度(個体数/ml)
例
・孵化仔魚水槽の水量…150L
・孵化仔魚水槽に投与したいワムシの密度…10個体/ml
・栄養強化槽のワムシの密度…500個体/ml
この条件では、100(L) × 10(個体/ml) / 500(個体/ml)=2(L) となり、栄養強化槽から2L取って給餌することになります。
【使用の際の注意】
使用する際は、上記の計算で算出した必要な分を、ネットやメッシュなどで濾しとってから海水で数十秒ほど洗浄します。その後、少し海水を入れた容器に、濾しとったワムシを入れます。このとき、ワムシができる限り空気に直接触れないように手際良くしましょう。そして、海水ごと、そーっと、孵化仔魚の飼育水槽に入れます。
!ワムシは洗浄する必要があります!
栄養強化剤は、油のようなものなので、洗わないと孵化仔魚水槽に油膜が出やすくなってしまいます。油膜に覆われた環境で育成すると、孵化仔魚が浮き袋を作る際に、空気中から空気を取り込めなくなり、遊泳力がなくなったり、尾ビレ付近の背骨が上向きに湾曲する奇形になりやすくなります。
!栄養強化したワムシは、栄養強化槽で長期間育成できません!
栄養強化剤は、魚に対して栄養価が高くても、ワムシにとっては栄養にならないからです。栄養強化したワムシはその日中に使用し、余ったものはその日中に処分しましょう。
ブラインシュリンプの培養と栄養強化方法
◆準備するもの
- ブラインシュリンプ孵化器×2個
- エアレーション用セット
- 人工海水
- ブラインシュリンプ乾燥卵
- ブラインシュリンプ濾し取り用ネット・メッシュなど(ろ紙や一部のコーヒーフィルターなどで代用も可能)
- 栄養強化用プラケース×1個
- 栄養強化剤
培養方法
【準備】
海水と同じか2/3程度の塩分濃度の水を準備します。ブラインシュリンプは、強い生き物なので人工海水ではなく食塩を使用して塩分濃度を合わせても孵化させることは可能ですが、孵化率が悪くなる可能性があることと、あまり長持ちしない可能性があるため、人工海水や天然海水の使用をおすすめします。特に、ブラインシュリンプを海水魚のエサとして使用する場合は、ただ孵化させるだけでなく、孵化から約1日かけて栄養強化をおこなう必要があるため、食塩水だと弱ってしまう可能性が非常に高いです。
【孵化させる卵の量と必要な水量】
耐久卵1gあたり1Lの水量があれば問題なく孵化させることができます。産地や季節によって大きく変動することがありますが、乾燥卵1gでおよそ20万匹のブラインシュリンプが孵化します。
例
・稚魚育成水槽の水量…100L
・孵化仔魚水槽に投与したいブラインシュリンプの密度…1個体/ml
この条件では、100(L) × 1000 × 1(個体/ml) / 200,000(匹/g)=0.5(g) となり、エサとして必要な耐久卵は0.5gほどなので、500mlの水量で培養できます。
【孵化…セットと回収方法】
ブライン孵化器に塩水をセットできたら乾燥卵を入れます。水温は27℃前後にして、エアレーションは強めにし、常に卵が水中で激しくかき回されているようにします。
約24時間で孵化するため、24時間以上経過してから1度エアレーションを止めます。そうすると、水面に卵の殻が浮いてきます。卵の殻は水質悪化をもたらすので、ここで卵の殻を回収します。
ブラインシュリンプは正の走光性が強いため、下からライトを当てると、より卵の殻とブラインシュリンプを分けやすくなります。回収したブラインシュリンプは、エアレーションをすればエサを与えなくても、そのまま1日くらいは生きています。海水魚以外に与える場合は、そのままネットやメッシュで濾しとって使用できます。海水魚に与える場合は、栄養強化をします。
【孵化…セットのタイミング】
ブラインシュリンプ孵化器を使用して24時間以上培養するので、毎日孵化させる場合は2つの孵化器が必要です。栄養強化をおこなう場合は、以下のような流れになります。
@朝に耐久卵をセット。
A翌日の夕方〜夜に殻を取り除き、栄養強化剤を投入。
B翌々日の朝に使用。
基本的に孵化仔魚は朝が一番空腹状態なので、朝にエサとして与えられるようにした方が良いと思われます。
栄養強化方法
【栄養強化】
ブラインシュリンプは、孵化直後にはまだ口ができていないため、栄養強化剤を取り込むことができません。栄養強化する場合には、卵をセットしてから30〜35時間後ほど経過した段階で卵の殻を取り除き、その後栄養強化剤を投入します。
栄養強化剤にもよりますが、ワムシよりも栄養強化に時間がかかります。朝から使用したい場合は、前日の夜からセットしましょう。また栄養強化の際にブラインシュリンプが過密状態だと死んでしまう場合があります。上記に記した耐久卵1gあたり1Lの水量より密度を高くしないでください。(密度が低いのは、問題ありません。)
使用方法
【使用の際の注意】
使用する際は、必要な分を、ネットやメッシュなどで濾しとってから、ワムシと同様に洗浄してから使用してください。
!ブラインシュリンプも洗浄する必要があります!
ブラインシュリンプを孵化させたり、栄養強化をさせた水は、多量のたんぱく質などのゴミが混ざっています。そのまま飼育水槽に入れると、水質悪化を招く原因などになりますので、特に、栄養強化剤をしたブラインシュリンプを海水魚に与える場合は、ワムシと同様に洗浄する必要があります。また、ブラインシュリンプも栄養強化剤のみでは長期的に管理することはできません。その日に使い切るか、余った分は処理しなければなりませんので、その都度適切な量を孵化させるようにしましょう。