穂竜 榊氏 2015年 B

穂竜の飼育とは 〜不易流行

新品種として理想の姿に近づきつつある「穂竜」は現在どのような飼育、繁殖、進化をされているのだろうか?榊氏の哲学論に「人も魚も同じ」という言葉が深く印象的だった。榊氏は、医療の中でも臨床検査技師という専門職に永く携わっていた経験を「穂竜」の飼育繁殖に取り入れている。専門分野でもある病原菌の知識、細胞学の知識、遺伝子や核、DNA、きりがないほどの知識量で「穂竜」 が生まれたのは、偶然ではなかったのであろう。

 

「人も金魚も同じ」とはつまり、春夏秋冬その季節を肌で感じ、朝日が昇れば食をとり 夜になれば眠る。季節が変われば風邪を引かないよう自己管理する。寒いときは凍え、暑いときは活発に動く。寒の水は100日の長生き、春になれば発情もする。全ては人の暮らしに当てはめると金魚も健康でいられるという。長い歴史の中に刻み込まれた本能とも言うべきDNAを変えないことが変わることであり変えていくことが変わらないことなのだろう。

 

産卵

春の産卵は二歳を使い、大潮の日を狙って自然産卵させる。一般的には、三歳を親魚に使うほうが、産卵数も豊富で、何より卵の大きさが大きく、栄養量も豊富に満たされているという。しかしながら、これまで30年近く累代繁殖をおこなってきた榊氏は、「穂竜の世代交代、進化」という意味の重要性を常に考え、遺伝子を次の世代に一年でも早く残さなければ間に合わないという。ご高齢ながら、なお進化にかける情熱は我々よりも熱く感じられた。また当歳魚がその年の8月頃になると卵巣も徐々に発育し始め、明けた二歳でも十分採卵させるよう飼い込むそうだ。

 

一腹約2,000個の自然産卵で毎年、1〜2万個のふ化を見守っているとお聞きし、たくさん採卵できる人工授精をあえておこなわない理由に世代交代が関わっているのかお尋ねすると、「それはしっかりと面倒を見られる範囲で無理に採卵はしないほうがいい」と笑いながら話されていた。たくさん仔引きし、ふ化した仔稚魚たちが収納数の限界を超えたタタキ池でどうなったのか?欲を出しすぎると何も残らないのだと戒めになった。

 

二歳 黒青竜

二歳 黒青竜 ※品評大会 変わり竜の部 準優勝と同個体

当歳 黒青竜

当歳 五花竜

 

当歳 五花竜

 

 

変わり竜の進化

 

「形を戻すのは比較的簡単だが、色を戻すのは時間がかかるから。」変わり竜の親魚を選ぶ際は、配色をまずイメージされるそうだ。ここ数年で目新しい変わり竜が出現し「穂竜愛好会」では、実に13種のパターンを認知しているそうだ。※内4種は審査対象外としているため、9種の変わり竜(黒青竜・五花竜など)でそのバリエーションを維持している。

 

ちょうど今回訪問させていただいたときは、進化した当歳の黒青竜を見せていただいた。 榊氏は「この個体たちで、来年は採卵させる予定だから偶発的な数ではなく、もっとたくさんの新黒青竜が出るかもしれないよ」と教えてくださった。

 

そら豆のような緑色に見える変わり竜でもなく、オリンピックイヤーに作られたメダル竜でもなく、誰もが納得してくれそうな渋くてかっこいい新黒青竜・・・。「ズグロ」?「テッカメン」?「パンダ」?何とお呼びしたらよろしいでしょうか?の問いに、氏曰く『「コクトウリュウ」で考えているけどこれしかないよね。』 この何ともウキウキとした笑顔で新たな「変わり竜」の名を話す榊氏は、本当に一途な熱い想いを注ぎ込んでいるのだろう。決して「仏作って魂入れず」とはならない。榊氏が命名した瞬間まさに魂が宿るような色艶が午後の西日によって照らされていた。

 

黒頭竜:頭に丹頂を思わせる緋盤ではなく『墨』を表現。面被りや肉瘤だけに現れる墨、体は浅葱が入り、地金のような各ヒレとエラ蓋に現れる墨奴ともいえる黒青竜の派生。きっと来年の今頃は、黒頭竜が新たな章を作り始めるのかもしれない。来年といえば、「穂竜愛好会」にとって節目でもある10年目を迎えることになるのだが、その大事な節目には 黒頭竜が「穂竜」と並ぶ2枚看板で活躍してもらいたいものだ。

当歳 黒頭竜

当歳 黒頭竜

当歳 黒頭竜

当歳 黒頭竜

 

 

冬眠を迎えるまで

10月に開催される「穂竜愛好会品評大会」が終わると冬の準備がすぐに始まるのだが、ここでも「人も金魚も同じ」という言葉を聞くことができた。一年を通し、穂竜飼育で一番神経を使うときがまさしく、これから訪れる「冬眠」の前準備だ。ここを失敗すると病気で落とす(死亡すること)という。医食同源の言葉を「穂竜」にも当てはめ、しっかりと栄養を蓄えさせて冬眠に臨み、健康な状態で春を迎えなければ、繁殖行動、産卵数、産後の健康状態全てがうまくいかないという。

 

早朝4時には起きて、エサを与えることを日課にしている榊氏の池をよく見ると秋口に差しかかるこの時期でも「仁丹藻」 が豊富に入れられていた。また当歳、二歳分け隔てなく与えられ、与えられるエサ以外に常に穂竜たちは、そのビタミン源を食しているようだ。便秘を防ぎ、青水になりにくい環境では特に有効的だという。色艶のある健康的な体からは、食事による健全な飼育状態が伺える。フナを祖先にもつ金魚だからこその本来のあり方なのかも知れない。

 

理想の形を具現化させる

この時期、当歳の穂竜はすでにしっかりとたくましい丸さをしている。パール系特有のその丸さを作り上げるためには、針仔から青仔のあいだに動物性を中心とした給餌を続けている。ブラインシュリンプからミジンコへ、ミジンコから赤虫と仔稚魚の成長段階に合わせ、穂竜の体型を形成させる。青仔になると『穂竜』の名にもある大きな特長の眼が出始める。いわゆる『出目』になる時期はエサの与え方にも細心の注意が必要という。

 

榊氏の理想の体型で、竜眼(出目)の形状について、前方へは出ないほうが良いことと、眼幅があることを常に考えているそうだ。すなわち左右対称に整えられた『俵型』の眼を作り出すため、青仔の一時期にエサを切らせ気味でコントロールし、濁りの強い飼育水(グリーンウォーターなど)で飼育すると眼が出やすい傾向にあるという。

 

しかしながら、「総合的な飼育の技術面より遺伝の影響が強く作用している」と分析する 榊氏は、「結局のところ同腹の青仔たちでも丸さ、眼の出方、体の成長バランスが同じ飼育でも様々だ」ということも仰っていた。長年の経験ともいうべき独特の飼育方法とこだわり抜いて追求したその審美眼があったからこそ「穂竜」はこの地で誕生したのだと今回の取材で痛感させられた。

木枠に樹脂張りの1坪池が2面

黒頭竜をすくう榊氏

コンクリート製タタキ池で二歳の穂竜をすくう様子

 

 

終わりに 〜希望を託す

ご自宅の野菜畑の一角に設けられたコンクリート製のタタキ池4面とプラ舟が10面、手製の坪池2面が「穂竜」「変わり竜」を進化させてきたステージだ。またいつの日か進化を重ねた「穂竜」たちに会いに訪れたいものだが、それは決して遠くない日であってほしいと切に願う。

 

作出者としての榊氏は更なる改良を重ね、多くの人にその魅力を広めるために、これからもたくさんの【穂竜】【変わり竜】を育て続けるのだろう。そして穂竜愛好会会長としての榊氏は、威風堂々と他を凌駕する唯一【戦える魚】【勝てる魚】をこれからも作り上げなければならない。穂竜イズムを次の世代に伝承するために・・・。

 

最後に飼育スペースで記念撮影

 

 

 

 

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