江戸錦 小田氏 2015年 B

江戸錦の系統と選別について

 さて、小田さんが維持している江戸錦の系統はいくつかある。 川原系と深見系、広島系、そしてそれらを小田さんが独自に交配させた系統だ。 川原系とはミューズやオーロラ、彩錦などの品種で有名な金魚仙人とも呼ばれている、川原やどる氏が独自にらんちゅうと東錦を交配して作り始めた江戸錦の系統のことを指す。特に浅葱色にこだわった、非常に体色の美しい江戸錦だ。小田さんは、その川原さんの作出された江戸錦に魅了され、現在に至っている。

 

 

川原系の親魚

川原系の親魚

 

 「川原さんの系統は浅葱色の質が非常に高いですね。特に、金魚伝承第三号(ピーシーズ,平成14年)に取り上げられている頃の個体は良い頭と非常にきれいな発色をしていましたね。現在もその血統を絶やさないように、特徴のある良い個体を出来るだけ残すようにしています。川原系は、体型はもちろんですが、浅葱色と赤色の濃い個体を重視して残しています。」

 

 

広島系

広島系

 

 「広島系は、広島県の愛好家がらんちゅうと江戸錦を交配して作出したと聞いています。近年のらんちゅうのように、カシラつきが非常に良く、恰好いいですね。広島系は墨の入り方が、黒ゴマを振ったような感じの個体が多く出ることが特徴ですね。浅葱と赤の発色は薄めで、赤が多く入りがちですね。最近はこの系統の魚を好む愛好家が増え、年々素晴らしい魚が出てくるようになりましたね。この系統を選別するときは、カシラつきを一番に重視しています。」

 

こちらは広島系×川原系の交配F1の二歳魚。体の墨の入り方が広島系と川原系とはっきりと分かれているのは非常に興味深い

 「オスが川原系でメスが広島系、オスが広島系でメスが川原系の2パターンを昨年、交配しました。予想以上に良い個体が現れましたね。ここからどのようにアプローチして改良していくかが悩む所ですね。」

 

 小田さんは、このような独自の組み合わせとそれぞれの系統を維持しておられる。交配は、出来る限り兄弟がけはしないで、孫かけや親子かけをする。

 

 「ゆくゆくは自分の理想とする江戸錦の系統を確立したいですね。カシラつきが良く、赤が頭に入っていて、体には浅葱と赤がバランスよく入っているもの。この理想の江戸錦を作るには、クリアしなければならない問題も多く、まだまだ時間がかかりそうです。出来る限りのことを毎年一歩ずつ一歩ずつ地道にやっていくことが一番の近道だと思って楽しみながらやっていますよ。」

無作為に掬ってもらった江戸錦 当歳魚

無作為に掬ってもらった江戸錦 当歳魚

 

鈴木東と黒出目金

 鈴木東は、埼玉県坂戸市の鈴木養魚場で作られた東錦のことだが、小田さんが飼育されている鈴木系東錦は、それを累代繁殖させたものだ。鈴木氏がこだわった青い(浅葱色の)魚を見事に再現し、去年(2014年)は金魚日本一大会当歳魚東錦の部でも優勝を獲得された。

鈴木系東錦の親魚

鈴木系東錦 三歳魚

 

 

2014年金魚日本一大会 当歳魚東錦の部、優勝個体

 「以前、知人の錦鯉の池に、江戸錦と鈴木東を入れさせてもらったことがあるのですが、江戸錦は尾型が崩れてしまった。ところが、鈴木東は尾型、体型ともに良くなった魚が多かった。思い返してみると、金魚伝承第三号(ピーシーズ,平成14年)で鈴木養魚場では錦鯉とともに群泳する鈴木東の親魚が掲載されていましたよね。そこにあの迫力のある鈴木東が出来るヒントが何かあるのかもしれませんね。」

 

無作為に掬ってもらった鈴木系東錦の当歳魚

無作為に掬ってもらった鈴木系東錦の当歳魚

 

 

 黒出目金は2系統お持ちだ。目の出具合は控えめだが体型が良く、体が大きく成長する系統と、目が大きく、左右によく出る系統の2つ。

 

 「昔から、金魚すくいのときにたくさんの小赤に混じって泳いでいる黒出目金が好きでした。当時の思い入れがあるからか、黒出目金はいまだに大好きな品種で数年前から友人から譲り受けた魚と繁殖しています。今はこの2系統を掛け合わせて両方の良いところを兼ね備えた黒出目金を固定し、最強と呼ばれる出目金を作ろうと考えています。(笑)」

黒出目金 親魚

黒出目金 当歳魚。 まだ目が出始めたところで今後成長と共に目が出てくる。このサイズでの流通量は非常に少ない。色が真っ黒のものと薄めのものが混在しているのが興味深い。

 

飼育の心構え

 

 生業ではなく、あくまでも趣味として金魚を飼育しておられる小田さんは、1日24時間のうち、金魚に費やせる時間は必然的に限られる。金魚日本一大会での優勝を目標に掲げ、限られた時間の中でその目標を達成するための工夫が、今回の取材では随所に見られた。

 

 「自分の生活スタイルに合うような飼育法を取っています。日常の管理で決められたことをキッチリとやること。ちゃんと管理していれば、病気になって魚が死ぬことなんてそんなに無いです。毎日見ていれば、しかも毎日同じ時間帯に見ていれば調子が悪いのは見てすぐ分かるし気付ける。気付いたときには手伝ってくれる人にもそれが分かるように目印の札をおいて餌をやらないようにしてもらう。うっかり自分がやらないようにするためにもなります。餌やりを手伝ってもらうときは、ノートにエサやりをした時刻を記入してもらうことで、餌やりをやったかどうか分かるようにしています。小学1年生の息子にも選別を手伝ってもらうこともありますし、少なからず家族の協力があってこそできていることだと思っています。」

 

 大会前には魚の最終チェックも兼ねて白い洗面器に慣れさせるために練習させることもある。洗面器に入れて30分から1時間置いておく。時間があるときには何回か事前に洗面器を経験させてから大会に臨む。よく、洗面器に入ってジッとしている魚を品評会で見かけるが、決して状態が悪いわけではなく普段と全く異なる環境に入れられていることが原因なのかもしれない。そのような準備も、品評会で優勝を勝ち取るための方法の1つになりうる。

 

 しかし、最も重要なことは日常的に魚をよく観察してきちんと健康に飼育することであろう。小田さんの飼育ノートと魚の元気な様子や魚体の美しさを見ると、品評会で優勝するための大前提がそこにあることが伝わってきた。もちろん、将来性を見据えた選別眼は必要だし、それを養うための経験も必須。自分が選別した魚が成長してどのように変貌するのか、その結果を知るためには長期飼育できる技術は間違いなく必要になる。どれも一朝一夕ではならないものなのだ。

 

 なお、2015年の金魚日本一大会の当歳魚の部において、小田さんの江戸錦と出目金が優勝された。江戸錦優勝魚は特別賞も受賞された。東錦は入賞を逃したが、非常に質の高い魚に仕上がっていた。6月末に撮影した当歳魚と10月25日に開催された日本一大会出品魚を比較すると、約4ヶ月の間にこれほどまでに変わるものかと目の前で見て本当に驚いた。毎日きちんと飼育すれば、品評会で優勝することは決して不可能ではないことを小田さんは証明されている。来年以降、小田さんの作る江戸錦がどのような魚になるのか、どんな魚を品評会に出品するのかとても楽しみだ。

2015年金魚日本一大会当歳魚の部 江戸錦 優勝 飛島村長賞

2015年金魚日本一大会当歳魚の部 出目金 優勝

2015年金魚日本一大会当歳魚の部 東錦 出品魚

 

 

 

 

 

 

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