江戸錦 小田氏 2015年 A

当歳魚の飼育環境

 取材にお伺いしたのは6月末のこと。江戸錦と鈴木系東錦の両方の当歳魚がたくさん泳いでいる。他にも黒出目金の当歳魚もいる。

 

 当歳魚の飼育方法はいたってシンプルで、プラ舟にエアレーションをしているだけである。エアーストーンは底に沈まないような位置に、水中に吊るすような感じにしてある。私の個人的な感覚ではあるが、プラ舟の大きさ・容量に対して、入っている魚の匹数が多いように感じた。入っている魚の大きさはこのときで全長4cm程度あり、そのサイズの魚を、かつ、これだけの匹数をじゅうぶんに太らせるために必要なエサの量は決して少なくないはず。当然、飼育水の水質維持は難しい。金魚が出すわずかなサインを見逃さず、不調時に即時適切に対処することは必須となるだろう。この飼育法で健康に成長させることなど、なかなか簡単には真似できない。

鈴木系東錦当歳魚の舟

黒出目金当歳魚の舟

 

 「スペースがないからこれだけたくさん入っているだけで、本当はもっとゆとりをもたせて飼育したいですね。ただ、増設するときっちりとした飼育が出来なくなるから舟の数は今の本数でしかやらないことにしています。ムリして広げると魚の質の平均が全体的に下がってしまうんです。平日の日中は仕事があるので朝しか安定して時間を取ることができません。限られた時間の中で金魚飼育をやろうと思ったら、これ以上は広げられないですね。本当はもう選別しないといけないタイミングなんですけど、一度にまとめて選別する時間をとることがなかなかできないんですよ。できる時間内で少しずつ選別しているんです。当歳魚の水深は容器の表面積・水量によって変えていますが、だいたい14~16cm程度にしてあります。あまり深すぎると尾芯角や開き、体形に多少なりと影響が出ると思うんです。秋までは水深を浅めにして魚を作るようにしています。」

江戸錦当歳魚の舟

朝から日差しが強いときは、すだれを半分程度かける。そうすることで水温が急激に上がることを防ぐ。

 

毎日欠かさない飼育ノートと、飼育方法の詳細

小田さんの飼育記録ノート。左は水温や湿度、気付いた点や行ったことを記すノートで、右はエサやりの記録ノート

 小田さんは飼育ノートを繁殖を始めた当初から記録している。エサを与えた時間、気温や室温、湿度、その日に気付いたことや行ったことを記録している。

 「たとえば、“この舟の鈴木東のオスが調子悪い”だとか、そのときとった対処法やその結果を記録しています。」

 ノートに毎日欠かさず記録することで積み重ねた経験や、周りから得た情報をもとに、日頃から金魚と向き合い試行錯誤を繰り返されている様子が伝わってくる。

 

 教えていただいた小田さんの飼育方法を次に記す。親魚(二歳魚以上)にはだいたい16時ぐらいまでに4回程度餌を与える。親魚には明るいうちまでしか餌はやらないが、当歳魚には6回かそれ以上与える。当歳魚の舟の上に蛍光灯を吊るしてタイマーで夕暮れから23時頃まで照明が点くように設定している。蛍光灯は敢えてどこにでもあるような蛍光管を使っている。品評会がせまってくると、更に餌の量を増やす場合もあるそうだ。

 

 「何かの都合で餌やりを1回でもやれないと悔やみますね。もし仮に毎日の餌やりを1回やめてしまうと、1ヶ月で30回、餌をやる回数が減ることになります。例えば約3ヶ月で合計90回も餌やりの回数が減ることになります。この地域は冬が長い為、例年5月頃にならないと産卵出来ないので、弥富で行われる日本一大会が開催される10月までの約5カ月間で魚を作ろうと思ったら、のんびりと飼育していられないんですよ。」

 

 ご自身が餌やりを出来ない時間帯にはご家族に手伝ってもらっているそうで、与える餌は当歳魚のこの時期は冷凍ミジンコに統一して各舟に与えるキューブ数を書いたテープを貼っておくことで餌のやり過ぎなどを防止し、かつ、適切な量を与えてもらうことができるように工夫しておられる。

テープや札で、与える餌の種類や量が舟ごとに示してあるので、手伝う人も分かりやすい

水換えを行った曜日など、目印として舟に浮かせて使う札

 

 現在使っている主な餌は、親に錦鯉用の咲ひかり育成用SS沈下(キョーリン)+咲ひかり育成用沈下(キョーリン)を混ぜて与えている。稚魚の初期飼料は孵化させた活きブラインシュリンプを与える。その後、冷凍ミジンコ、らんちうディスクらんちう育成用や咲ひかり育成用(キョーリン)などを与えている。ブラインシュリンプは骨格を作るのに大事なので、出来る限り長く与えるよう心掛けているそうだ。また、9月に入ってからは品評会に向けて咲ひかり色揚げ(キョーリン)などを与えてる。

小屋の外に設置されている貯水タンク

 水換えは1日300リットル程度の水道水を使う。使う水道水は小屋の外に隣接して置いてあるタンクに貯めて常に曝気してあり、ヒーターを入れて室内と同じ水温になる様に設定している。基本的にはこの300リットルで日々の水換えのやり繰りをするが、足りない場合は水温を見ながら水道水をそのまま水換えに使うこともあるそうだ。

 「使える水量に限りがあるので毎日やらなければならないことを確実にきっちりとやります。そうでないとローテーションが狂って全ての飼育舟に支障をきたしてしまうんです。」

 

 親魚には投げ込み式フィルターを各舟に1個ずつ入れて飼育している。水換えのやり方を実際に見せていただいた。

投げ込み式水中フィルターを取り出す様子

 一定の区画ごとに設置して使い分けている網をとり、投げ込み式水中フィルターとその下にくっついているフンなどを一緒に網で引き上げる。このとき、フィルターの下に集まったフンや汚れがなるべく舞わないように丁寧に取り出す。

 

舟の汚れを落としながら排水

 次に、スポンジを使って壁面の汚れを落としながら風呂の水抜き用ポンプで汚れと水を吸い出す。(コケは魚によって残す舟と落す舟がある)この一連の作業は魚が入ったまま行うのだが、このやり方で体調を崩して死なせてしまったことはないそうだ。魚が飼育槽内で横に倒れるギリギリまで水を抜いてしまう。

 

 

 排水が終わったら、外においてあるタンクから水中ポンプで一気に水を足す。

 

水中フィルターをバケツの中で振って汚れを落とす

 フィルターは基本的に、飼育水を使ってゆすぐだけだ。

 

1個を洗うだけでこれだけの量の汚れが出る

加工を施した大磯砂入りの水中フィルター

 

 全てのフィルターには、友人から伝授してもらった特殊な加工を施している。真ん中に入っているカートリッジはそのままだが、綿は全て取り外して綿の代わりに大磯砂を入れる。入れる大磯砂の量はすすいだときにフィルターの中でガシャガシャと混ざって汚れを洗い出せるような量に留め、ギチギチになるくらいたくさんは入れない。ひどい汚れが溜まっている場合には、大磯砂をバケツにあけてケースや白いプラスチック部分を擦ってキレイにする。

 

 このような方法で週に1回の水換えを行うだけで、全換水はしない。必ず少し水を残すようにしているとのことだ。

 

 「フィルターは濾過の役割というよりもフン集めのためのものという認識ですね。この加工を施しているので安いランニングコストで飼育が出来ています。」

 

 よく見ると、各舟、ほぼ全てにヒーターを入れている。舟によっては保温用の発泡スチロールが巻いてある。

 

 「この地域は盆地特有の日中と夜の気温差が大きく、お盆が過ぎると一気に冷え込みが厳しくなってくるんです。なので、急激な水温低下防止のために今は15℃程度に設定してます。消化不良などで魚の調子が崩れやすいですからね。ただ、色艶の良い丈夫な魚を作るには、ある程度の水温差も必要と考えているので、その辺りも考慮しながら水温調整をしています。」

 

 小田さんがお住まいの地域は、冬は積雪量が多い。飼育小屋に入るために、雪を掻き分けて入らなければならない程、積もるそうだ。

 

 「サーモスタットは5℃まで設定が可能な製品を選んで使っています。冬の設定温度は最低温度の5℃にしています。ヒーターのワット数が水量に対して十分ではないので、設定温度までは上がりませんね。実際、水温は2℃か3℃になります。それ以上温めようとするとヒーターのワット数を上げなければいけませんが、そうするとブレーカーが落ちてしまうんですよ。ほとんどの舟にヒーターが入っていますので、こればっかりは仕方ありません。」

 

 なお、舟の場所は魚の年齢や性別、系統ごとに毎年順繰りで移動させている。魚の飼育管理上、時期や品種によっては舟に付いたコケは落としたり残したりする。

 

各舟には見やすいように水温計が設置され、水替え時や餌の量などがわかる札が入っている

 

 

 

 

このページの先頭へ戻る