巻木養魚場 2016年 B

隼人和金のキワのきれいさ

隼人和金

 今回の取材で特に目を引いた点に、隼人和金の赤と白の境目がとてもきっちりしていて紅白模様が際立ってキレイだったことがある。錦鯉ではひとくちに紅白と言っても多様な系統があり、それぞれ特徴を備えている。昔から系統を維持し続けている養魚場やそれらを交配させて作っている養魚場などさまざまあるようだ。

 そもそも金魚や錦鯉のウロコは、1枚前の頭側のウロコの下に差し込まれている状態で並んでいる。ウロコ1枚ずつ色が異なるとすると、たとえば1枚前のウロコが透明だった場合、差し込まれているウロコが赤ければ前のウロコの下に赤がぼんやり透けるようになる。

 赤と白の境目がウロコできっちりと分かれているということは、差し込んでいる下のウロコの色を遮ることができる構造になっていると考えられる。普通鱗個体と透明鱗個体を交配すると普通鱗個体やモザイク透明鱗個体が出現することから鱗の構造について遺伝的に支配されていることが示されている。このことからもおそらく赤と白の境目のきれいさについても遺伝的要素によるところが大きいのではないだろうか。

 魚類の色や模様の形成パターンは金魚や錦鯉以外の魚種で研究がなされているが、未だわかっていないことが多い。長い歴史を持つ養魚場は経験的にこのあたりのことを熟知していて、美しい紅白の模様を作る技術を独自に確立しているのかもしれないが、これはなかなか素人が知ることはできない。巻木養魚場で繰り返し行われてきた交配時の種親選別において、錦鯉の分野にも精通している巻木さんの視点が結果として隼人和金の紅白の美しさに表れているのかもしれない。

 

 

おわりに

 ジャンボオランダは今ではすっかり全国的に認知されている。“大きく育つ金魚”という品種としての魅力はもちろん、その魅力が誰にでも伝わるネーミングも良かったのではないかと思う。また、巻木さんのお言葉をお借りすると「ジャンボは他の金魚と比べるとずっと丈夫だからね」という点も、ジャンボオランダが広く普及している要因の1つではないだろうか。お店の水槽や一般の愛好家の水槽でも多少の不具合があっても元気に泳げるたくましさがあるからこそ、ジャンボは全国に流通できるのだと感じる。

 「丈夫だから、玉鱗との両立ができる」と巻木さんも仰っておられる。巻木さんは金魚の養殖事業だけでなく、お食事処“玉鱗”の経営もされておられる。玉鱗は地元でも人気のお店で、取材した日のお昼どきは平日にもかかわらず広い店内はほぼお客さんで埋まっていた。夏の1日のスケジュールをお伺いしたところ、朝6〜9時が金魚、10〜14時がお店、14〜17時が金魚で、17〜22時までがお店というスケジュールをこなす、非常にタフな方である。玉鱗と養魚場が車で15分くらいかかる距離にあるため、それもまた一層大変な条件だと感じる。最近は息子さんが手伝いをされるそうだが、私の感覚からすると手伝いがあっても体力的にハードではないかと感じた。今回はそのようなとても忙しい合間を縫って時間を作って取材に応じていただいたことに大変感謝しております。



新たに取り組んでいる、だるま琉金モザイク個体×隼人錦のF1個体@

新たに取り組んでいる、だるま琉金モザイク個体×隼人錦のF1個体@の横見

 

 そんな中でも新たに巻木さんが取り組まれているのが隼人錦の改良である。現在、だるま琉金(モザイク個体)と隼人錦のF1世代を親に仕上げたところで、これに隼人錦を再度交配される。

狙いは隼人錦の体高を高くすることと太さを出すこと、とのことだが、その狙いのために、新たに全く別の品種との交配を行うところに、巻木さんの創作意欲の高さと、継続する力を見せつけられた。飲食事業と養殖事業の両方に取り組み、しかもどちらもきちんと成功を収めておられることに敬服する。

 これからもまだまだ巻木さんの試みは続くだろう。巻木養魚場からリリースされる魚は月日を追うごとに良くなり続けるに違いない。金魚愛好家の一人として、未来のお楽しみをまた1つ、見つけることが出来た。いつか、どこかのお店で衝撃的な出会いがあることを期待している。

 


お食事処“玉鱗”の昼食。幻のエビ、タカエビ定食、塩焼き、唐揚げ、味噌汁、刺身のまさにタカエビづくし。14匹のタカエビが使われている。獲れる時期が限られているため、季節限定のメニュー。

おすすめは塩焼きで、頭のミソが濃厚で旨い。殻が柔らかいので、殻ごと食べることができる。

 

 

 

 

 

 

 

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