巻木養魚場 2016年 A

ジャンボ東錦の作出と隼人錦の出現

 ジャンボオランダ作出に続いて取り組まれたのがジャンボ東である。平成6年に、弥富の中寸から丸手タイプの浅葱が強くて墨があるタイプの東錦を種親に用いて、ジャンボオランダと交配させた。得られた次世代を累代することを繰り返すなかで頭部肉瘤の出具合が納得いかなかったことから、鈴木系東錦を交配に種親として用いられている。これらの結果、得られた系統がジャンボ東である。

ジャンボ東 3歳魚

ジャンボ東 3歳魚

 

ジャンボ東 3歳魚

ジャンボ東 3歳魚

 

隼人錦 3歳魚

 ジャンボ東の作出過程で短尾で頭部に肉瘤がのらないモザイク透明鱗の和金タイプが出現した。周囲の評判が良いこともあり、これをきちんとした品種に仕上げるべく体高が高く太さのある和金タイプを累代してできた系統を隼人錦と命名した。その後、隼人錦の中から普通鱗個体で色変わりする系統が出現し、これを隼人和金としきちんと累代されておられる。

 

 取材させていただいた日は最も見ごたえのある個体は全て展示会用に販売されてしまった後だったこともあり、あいにく最大サイズのジャンボオランダも隼人錦も写真に収めることができなかったが、それぞれ最大全長をお伺いした。

 ジャンボの最大全長はおよそ40 cmで隼人錦は35 cmということだが、長尾と短尾の違いがあるが体のサイズはほとんど変わらないとのことだった。品評会でよく使われている白い洗面器は、市販品の最も大きいサイズの70 cmは欲しいところ。もしジャンボ系統の品評会をするとなると、錦鯉と同じような青色のプールの方が適しているかもしれない、というと大げさだろうか。

隼人錦 3歳魚

隼人和金 3歳魚

 

エサについて

 巻木養魚場では自家製のエサを作って与えておられる。エサについてはおそらく、全国の金魚養殖業者でも唯一、巻木養魚場のみが取り入れている方法である。 原料は押し麦と魚。魚は小アジやサバ、カマス、キビナゴなどで時季によって使う魚は変わる。その理由は、鹿児島県笠沙の海で獲れる魚を地元漁港から日々、仕入れているからである。このような特殊なルートでエサの原料を調達する仕組みを持っておられるのは巻木さんが経営されている“お食事処・玉鱗”によるところが大きいのであろう。

 作り方の大まかな流れを以下のように教えていただけた。押し麦1〜2升に対して10〜15 kgの魚を合わせて炊き、ミキサーにかけて細かくする。魚については稚魚用にはその時期獲れる雑魚をメインで使用し、稚魚以外の個体には玉鱗で調理時に出る魚のアラをメインで使う。そこに金魚用のマッシュを15 kg程度混ぜて一晩置く。一晩置くと出来上がりの時より柔らかくなるので、柔らかすぎた場合はマッシュを足して完成。

 エサの画像をご用意できず大変心苦しいのだが、完成したエサはウナギ養殖の練りエサのような粘着力のある柔らかいエサになる。池に入れると水はやはり濁るそうだ。育成池の水深だけでなく、このエサが巻木養魚場のブランドとなるジャンボオランダの迫力を作り上げている秘密の1つかもしれない。

 

ふ化からの流れ

 ふ化からの1年の流れについてお伺いした。年に1回、自然産卵で採卵されるが、受精卵のついているヒカゲノカヅラなどを野ざらしの方のコンクリートたたき池に収容してふ化させる。ふ化したら卵黄と、ミジンコの小さいサイズのものを選って1, 2回与えてから土池に収容する。土池には牛フンを2tダンプで牧場に買いに行きそれを撒いて青水を作り、稚魚を移動する前にミジンコを沸かしておく。

 

網ひきの様子@ 池に棒を立てて網の片側を括り付けてある。括り付けてある方の反対側の紐は池から外に出しておく。網は池底に沈んでいる状態。

 取材にお伺いした9月中旬には土池には水が少しずつ注水されており、エアレーションもわずかにしてあった。エアレーションがあると夏場の鼻上げが見られなくなるそうだ。

 特製のエサを使って育て上げ、画像にあるような網で掬い上げて選別をする。網を仕掛ける場所に数日前からエサを置き続けてその場所に魚が寄るようにしておいて、取り上げる前に網を仕掛けてエサをおき、寄ったところを掬いあげる。この方法を数回繰り返し、掬える数が少なくなってきたら網を引く。

 網を引く場合は水温が上がりきる前の朝のうちに取り上げを終えてしまうことが肝心だそうだ。「人間が楽して取り上げられれば魚も傷まないと思います」というふうに仰っておられた。楽に取り上げ作業ができるような仕組みをきちんと作っておくことは非常に大事であるように思えた。

 

網ひきの様子A 岸に出しておいた紐を取り、引き上げる。

網ひきの様子B 引き上げたところに入った魚をタモ網で掬い取る。なお、撮影時は餌を仕掛けていないので画像には魚はほとんど写っていない。

 

ビニールハウスの奥には孵化池兼、当歳魚を管理するための池がある。

 以前は、当歳魚を土池からたたき池に移すときに苦労されたそうだ。たたき池に青水を作って土池に近い環境を準備しておいても、移した後にエサやりを始めると調子を崩すことが頻繁にあったそうだ。

 試行錯誤を繰り返してたどりついた結論は、「11月以降の霜が降りるようになってから移動すること」だそうだ。26〜27℃の時に特に崩すことが多かったそうだが、11月以降の移動に変えたことで調子を崩すことはだいぶ減ったそうだ。

 

 

 

 

 

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