片山氏 2014年 B

“九紋龍”という品種

 

 

 

 

九紋龍とは、片山さんが作出している朱文金の「変わり物」で現在固定化をめざし特に力を入れて繁殖させている金魚で、「九紋龍はあくまで作品名」であって、品種と言える段階ではないと仰る。鱗は違うが錦鯉の品種“九紋竜”のような表現をしており、錦鯉の“九紋竜”と差別化するために“りゅう”の字を変えて“九紋龍”とされている。取材年の2014年金魚日本一大会でも当歳その他の部和金型で九紋龍は優勝している。以前にも優勝経験があり、その際雑誌等にも紹介されたはずで、目にしたことがある方も多いと思う。

 

 

上の写真は、水槽に入れてある九紋龍の選別落ちの個体たちで万が一、本命の親継ぎたちを失ってしまったときのために、完全に別の場所で管理しておいてある。品評会に出したという事で、親継ぎ候補から外れた日本一大会の優勝魚もこの中に入れられていた。状態の良さは画像を見ていただければお分かりいただけると思う。墨は成長に伴い変化するとの事で、種としては早々に判断出来ないようだ。

日本一大会で入賞するために

「自分の理想ばかりを追求するだけでは日本一大会で入賞するのは難しい。日本一大会で入賞するためには審査員が優勝・入賞に選ぶ魚を研究する必要があります。」

 

片山さんは、審査員がその品種に求めるポイントやこれまでの入賞魚の傾向を調べて把握したうえで出品しているそうだ。

 

「魚の審査というのは、その当日、その場所で、審査時に“洗面器を泳いでいるもの”を審査するわけで、その瞬間のものなんです。審査時にその場所に居て魚を見比べていないと、なぜそういう並びになったか?などは判断できないんですよね。それと、審査員には金魚生産者の方も多い。その生産者さんの作る品種ごとの特徴や重視するポイントをきちんと把握することも重要です。そして何が重要視されるのかを審査の様子とその結果を見て判断します。そのうえで翌年に自分が作った魚を出品して審査員にみてもらうから、毎年答え合わせをしているようなものだね。」

 

もし、片山さんのように入賞魚の傾向を研究するのであれば、当然ながら会場に毎回足を運んで実際に審査の様子や洗面器の魚を自分の目で見る必要がある。さらに言うと自分で育てた魚を出品してみると、賞を獲るための要素を実感しやすいに違いない。

 

これは私事になってしまうので片山さんの項に掲載することは大変恐縮するし、恥を忍んでお伝えすることになるが、私も数年前に自分で卵から育てた金魚を日本一大会に出品したことがある。しかし、結果は惨敗。5位までにも入らず、全く奮わなかった。自宅で洗面器に入れて見ている分には“そこそこいけるだろう”と思っていた魚が、会場では周りの魚とのレベルの違いを見せつけられた。自分の魚を出品せずにただ眺めるだけの品評会のときには感じることが出来なかったほかの魚との違いを痛感したのである。

 

「自分が自宅で育てていていくら良いと思っても、相手の魚がはるかに良い場合もあります。品評会で同じ時間に並べて見比べることで勉強できる。自分が良いと思って育ててきた魚が実際はどうだったか?ということが解る瞬間です。思い入れが強すぎて盲目になることもありますし。」

 

品評会に自分の魚を出品することはなかなか勇気の要ることだが、出品することで初めて解ることが本当に多い。ぜひ、皆さんに一度出品してみていただきたいと思う。

 

さて、東錦を例に、日本一大会での片山さんの戦略を少しばかり教えていただいたのでここでご紹介させていただく。

 

「たとえば、東錦の部では当歳魚には頭が出やすい鈴木系の東錦を選ぶし、親魚の部では体の太みをもたせないと勝負にならないから弥富系の東錦を使う。」当歳魚の部、親魚の部それぞれで勝つために必要な要素を研究して把握しているからこそ立てられる戦略である。

東錦 親魚(弥富らしい表現をした品評会用に育てられた魚)

鈴木系東錦 当歳魚

 

ちなみに片山さんのいちばん思い入れのある品種は東錦とのことだ。しかし、東錦以外にも本当に多くの品種を繁殖させている。

 

「一つの品種のみを繁殖させていても解らない事が、いろいろな魚を見て触って繁殖させていく事で少しずつ解ってくる。たとえば、オランダ獅子頭ならどうなのか。背びれがないランチュウだとどうなのか。尾びれが一枚のコメット体型の品種はどうなのか。東錦だけでなく他の品種も卵から育ててみると、それらが育つ過程でどんなふうに変化していくのか、見ることが出来る。東錦だけを作っていては気付けないことがあるし、沢山の事を知りたくて繁殖させている」と仰る。

 

自分がメインに据える品種以外を育ててそこから何かを得ようとしたとき、片山さんのように品評会の入賞魚を狙うレベルまで突き詰めて育てて気付くことというのは、ただ単に卵を採って育てているだけでは気付けないことが多いのだろう。片山さんの育てる金魚は、片山さんの知、技術、情熱が結集した1つの“作品”なのだ。

最後に

「魚を育てていくのは365日やるべきことで、育てることに関しては他人と比べるというよりも、自分がどこまでやれるのか?やれたのか?そこが一番大事なんですが、自分が“育てたもの”は他の人の魚も拝見してみて参考にして見比べる。足りないなら、どこが足りないのか、そこが品評会で入賞するために一年やっていく目標というか目安になるんです。」とは片山さんの言葉だ。

 

金魚に対する知識量・情報量の多さに驚くと同時に情報収集力のすごさとその情熱に打ちのめされ、最後はもう金魚生産者にしか見えなかったのだが、最後に中華料理をご相伴に与り感じたことは、片山さんの本業はやっぱり料理人であるということだった。特に、台湾ラーメンが最高にうまかった。料理人は1品の料理を完成させるために試行錯誤を繰り返すものだと思うが、研究熱心でなければ質の高い良い料理を提供することは難しいはずだ。

 

料理も金魚も本質的には同じで、いかにして質の高い良いものを作るのか、日々研鑽を重ねることがきっと大事なのだと思う。おかげさまで頭も胃袋もハートも大満足で帰路へとつくことができた。だがしかし正直なところ、片山さんの飼育スペースは確かに広いが、これだけの品種数で質の高い個体を生産し続けるためにはむやみやたらに繁殖させているわけではなく、きっとどこかに何らかの秘密があるに違いない。

 

できることならば再度お伺いして、今日片付けられていた全てのタライが並んでいる時期に(かつ、もっと早めの時間帯に)お伺いして、(今回は訪問時はすでに日が傾いてきた頃で写真を撮る時間が十分になかったのだ。)片山さんが金魚日本一大会で優勝する魚を作る過程やポイントを取材し、紹介させていただきたい。

水泡眼 当歳魚

ピンポンパール 当歳魚

 

江戸錦 当歳魚

青文 当歳魚

 

茶金 当歳魚

浜錦 当歳魚

 

頂天眼 当歳魚(太みのある系統)

頂天眼 当歳魚

 

江戸錦 当歳魚

もみじらんちゅう 当歳魚

 

更紗和金 当歳魚

桜コメット 当歳魚

 

蝶尾 親魚

キャリコパールスケール 当歳魚

 
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